お馬と親子

「おんまの親子は、なかよし・こよしぃ〜」 スペインで子どもと一緒にいた時間、生の日本語と日本文化を教えるのは私しかいないと思って、というのは半分で、残りの半分はまだ会話の成立しない娘との「間」がもたなくて、しょっちゅう日本の童謡を歌っていた。

友人からCDをいただいたり、自分でも買ったりしたが、基本的に自分が歌えるのは、自分が歌ってきた曲でしかない。なので、お風呂上がりのドライヤーのときには「いっぽんでもにんじん」。子守唄に「およげ! たいやきくん」。いま考えると、まったくアップ・トゥ・デイトではないけれど、「おかあさんといっしょ」が見れる環境でもないし、仕方がないのだ。

そして、ジョン・レノンと同じ年に生まれた(そしてこちらは幸いにも暗殺されずに存命の)母が私に歌ってくれていた歌が、やはり口をついて出てくる。「おんまのおやこはなかよしこよし」とか「ことりはやっぱりうたがすき」とか。スペインの保育園に行く途中も、いつも3、4曲歌っていた。


さて、神戸で、保育園に入って。お迎えに行くとある日、「おばあちゃん」と呼んでもいいくらいのベテランの先生が、「ニーニャちゃん、今日、『おんまのおやこは〜』って歌うてましたよ」と教えてくれた。きょとんとしていると、「せやから、『よう知っとるねえ、誰に教えてもろたん?』ってきいたら、『ママー』って。最近の子どもねえ、この歌、知らんのんちゃうかなあ。私も久しぶりに聞きました」と説明をしてくださった。はー、そういうことでしたか。

ということで、ニーニャのソング・ブックに登録されている歌は、どうも、昭和48年オイルショックあたりに生まれた私のそれと、ほとんど変わらないらしい。なんとも申し訳ない。ただ、この歌のおかげで「お馬」が好きになったらしく、日曜は競馬中継を見せてくれとせがむ。そんで、「青の5、がんばれー! いけー!」と叫び、さらにリプレイではさっきゴールした馬を応援して「やったー! ニーニャの馬が勝ったあ!」とよろこんでいる。それで馬券が買えれば世話ないんだが。さあてメインレースも終わったし、とチャンネルを変えると、すごく怒る。

仕方ないので、馬券を買うわけでもないのに、競馬中継を見ている。でも、ああもうあの菊花賞で最後のコーナーをまわるや画面から消えて外ラチいっぱいを天馬のように飛翔してきた奇跡の末脚ダンスインザダーク(鞍上・武豊)がお父ちゃんになっとるやないか。ってことは、サンデーサイレンスはおじいちゃんか。ああ、ここでもまた、スペインにいた10年の月日が、ひと世代狂わせてしまったのか……。