シー・セニョール! まであと一歩

ハーイ、サマータイムになって日没夜9時のスペインです。1日が長いのなんのって。んでもって現在はイースター休暇の真っ最中。1日が(同上)。ちなみにマドリードでは「公式」な祝日は明日の木曜と翌金曜だけ(ツレの休みもこれだけ)だけど、公立学校では先週金曜から来週月曜におよぶ超大型11連休。ということは私、11連投…。さすがの藤川球児でも球威不足が心配されるところですが、折り返しの今日まで、たいした煮詰まりもなく乗り切れてます。なお、今回のテーマは「毎日150%疲れる」。毎日ガンガン外出・外食・公園。これで、風呂に入る頃にはいつも頭が空っぽです。そして一晩寝たら、すべて忘れてしまう。これは偉大なるサッカー監督・佐伯夕利子直伝の生き延びる智慧なのでした。

月曜午後は、セネガル人とのラブリーな娘ちゃんふたりを育てる関西人姐御と公園でボテジョン(飲み)をしたあと、マクドナルドへ。ニーニャ(2歳4ヶ月)の手を引いてプレイルームに連れて行ってくれた面倒見の良いお姉ちゃん(4歳半)が、血相を変えて戻ってきた。誕生会あがりの浮かれガキんちょたちにニーニャが囲まれ、「中国人!」と言われたらしい。そういや娘と別行動すること少ないから、こういう経験は初めてだ。姐御は「なんやのそれくらい。シェーシェ、サイツェン言うたってきなさい」と笑っていたが、私は内心「どないしよ」と思っていた。まあ、いつかは来る日だとわかってはいたが。

スペインで「チナ」はアジア人一般を意味して使われがちだ。なのでべつに「ちゃうよ私は日本人やで」と否定する気はない。というか、今回は文脈的にそういうことを訊かれているのではまったくないしね。「ニーハオ」と笑顔で語りかけてくるひとには、笑顔で答える。出身国を問われてるなら、「日本女子」と答える。「やーい、中国人!」には? まあ、「で、あんたは?(Y, tu que?)」あたりが妥当だろうというのが、ハーフのお嬢さんが登校中に待ち伏せされて「チナ!」と言われた経験をもつ友人と話した結論。もちろんニーニャは、言い返すどころか意味もわからなかっただろうけど、「なにがなんだかわかんなけど、バカにされた」のはわかったらしく、号泣していた。

先週は結婚を控えたハーフのお嬢さんと話す機会もあった。彼女は16歳まで関東の田舎で育ち、それからスペインに来た。子ども時代はずいぶん苛められたという。「やーい!」と言われたんだろう。ちなみに「ハーフ」ということばだってひとによっては侮辱と取る。「ダブル」あるいは「ミックス」と呼ぶのが当事者のあいだでは主流となっているという話も、かつて耳にした。そういや、長崎に8年住んでいたアメリカ人義姉も「ガイジン」と呼ばれることに違和感もってたっけ。たしかに「外国人」ではなく「ガイジン」と発言されるときって、侮蔑的な意味を含みがちかも。


まあともかくそのメスクラ(スペイン語で「ミックス」)のお嬢さんが、「ニーニャちゃん、たぶん自分のこと日本人だと思ってないですよ。『母国』って、教育環境、言語環境で決まりますから」と断言した。たしかに娘、このところボキャブラリーがすごい勢いでスペイン語に変わりつつある。かくれんぼをすれば、それまで「どこかなー?」だったのが「ドンデ・エスター?」に。寝る前の絵本の「ワニちゃん」も、発音が難しかろうに「コッコドリーロ」へ。あんなに好きだった「いないいないばあ」すら、先週から突如「クルックー・クルックー」になった。うるさいくらい「見て見てー!」と言っていたのも、保育園でまったく通用しない数日を経たのち見事に「ミラ・ミラ!」とスペイン語になってるし。こうなったら家で何度直しても、もう日本語には戻ってくれない。

さらには、日本語にない表現も頻出するようになった。箱を明けながら「ア・ベール、ア・ベール(「どれどれ」…無理に訳せば)」。積み木が倒れて「アイヤイヤー(「あーあ」だね)」。大きなシャボン玉ができたのを見て「バジャ!(「うわ!」かな)」。うーん…。次は、正解したときにディエゴパパ・ペドロが言う「シー・セニョール!」あたりだろうか。こりゃ、ツレの口癖となった「ホーデ・マッチョ」(日本語訳不能。直訳すると「性交する」+「男」)が出る日も遠くないぞ。

こういうこともあった。横断歩道で、「いま赤でしょー、赤のときは行っちゃダメ。ほら、色が変わったでしょ? この色になったら行くんだよ」と教えていたら、満面の笑みで「みろり!」と言われたのだ。「青だよー」と笑顔で訂正しかけて気づいた。スペイン語で信号の色はverde、ベルデ=緑、なのです。彼女は最初にそれを思い浮かべてから、日本語に直訳したわけだ。でも、信号の色をいうときの「正しい」日本語は「青」。冷静に見れば緑色だけど、誰もそうは言わない。なぜなら古来、日本語の「あお」は概念として緑をも含むんです。日本の山には緑の若葉があおあおと茂るのです。ヨヨヨ。

他にも探せば、一見日本語なのに構造が完全にスペイン語なことが多いことに気づいた。というか、ほとんどだ。語順が「名詞・形容詞」(たとえば「ゴム・茶色」とか)、「名詞・所有詞」(「ゴム・ママ」「くっく・パパ」)、命令形の「動詞+目的語」(「トマ(=受け取れ)・ママ」)…って最後のは日本語ですらないよ! (なんとか)日本語で「どーぞ」と言ってくれるときにはブツを手渡しする娘が、スペイン語で「トマ!」と言うときにはこちらの手元に放り投げるので、いつも受け取るときにカチンとくる。悪気はない、というかそれがスペインでの「正しい」方法なのだと、頭ではわかってるのだけど…。カーチャン日本人なんだよなー。信号、緑に見えたことないもん。