わたしの財産

こ初々さんには、バンコちゃんという10日違い生まれのとってもよいお友達がいます。お腹の中にいる時からの仲ということもあるのでしょうか、保育園へ行くと「こ初々ちゃんの!!!」とおもちゃの所有権を主張しまくる意地悪な様子はバンコちゃんに見せることもなく、またバンコちゃんが私のお膝の上でしばらく過ごしていても文句さえ言いません。まだ「一緒に仲良く遊ぶ」ということは出来ませんが、会う前には「バンコちゃんに会うの?やったー、わーいわーい!」と大喜び。きっと彼女の中で、バンコちゃんは「とくべつ」な存在なのでしょうね。

それと同様に、私にとってバンコちゃんのお母さんも「とくべつ」で、子育ての日々になくてはならない存在です。どう「とくべつ」なのかはなかなか説明が難しいのですが、「一緒にいてとても楽しい」ということに加えて、いつもいつもバンコちゃんのお母さんから学ばせてもらっている、のですね。今までにそういうことはたくさんあったのですが、今回はその中からとりわけ私が感銘を受け、考えさせられたことについて書きたいと思います。

バンコちゃんは見た目がとっても乙女な女の子。そしてまたここが魅力的なのですが、その乙女なお顔立ちとは反対に、ちょっぴり勝ち気で男まさりな一面もあります。ですからおもちゃを取られて「うえーん」と泣くだけのこ初々さんとは違って、おもちゃの取り合いのときにとっても頑張る。そうして頑張っているうちに、時々相手のお友達をぱくっと噛んでしまうことがあるようです。なのでたくさんのお友達と会って遊んでいるときには、お母さんはバンコちゃんから目が離せず、ちょっぴりお疲れのように見えました。私はその時に、「バンコちゃんが噛むのは、コミュニケーションの未熟な一時期のことだけ。そして噛まれても大したことにはならない。しかしそれは噛まれる側だから言えることであって、噛むほうはそうは言いにくいだろう。そうなると子どもの行動を見続けなくてはならなくて、疲れてしまうのだろうなぁ。」と考えて、「少なくともこ初々さんと遊んでいるときは、成り行きに任せてもいいですよ。」ということをお話しました。噛んでも噛まなくても、何かが起こったときに最善の方法で対処できればそれでいい、と私は思ったのです。

しかしながらバンコちゃんのお母さんは、こうおっしゃいました。「私の大好きな子どもちゃんが痛い思いをするのは、私にとっても痛いことで」、それに続けてこのような趣旨のことを私に伝えてくださいました。「(自分の子どもが)お友達を噛んでしまって、そのことでそのお友達から怖がられたり嫌がられたりするのは可哀想だなぁと思うのです。」そしてだからこそ、「おもちゃの取り合いまでは見守っていて、噛む寸前で阻止することを目指しています。」・・・私はバンコちゃんのお母さんの、あたたかい母の心に触れて、思わずじーんとしてしまいました。「噛む」「噛まれる」という一場面を切り取ってみれば「大したことではない」かもしれませんが、それが二人の関係にどう影響を及ぼすか(あるいは及ぼさないのか)はコトが起こってみなければ分かりません。しかしもしかしたら今まで仲良く遊べていたにも関わらず、「噛む」「噛まれる」ということが起こったあとには二人の関係にヒビが入ってしまうかもしれない。それならばまだ「噛む」ということの意味や、それが引き起こすことについて理解のできないバンコちゃんにかわって、そうした事態を寸前で回避するための最善を尽くすしかない。バンコちゃんのお母さんがそのようなお気持ちでおられたことを、私はその時に初めて知ることになりました。そして「私の思いいたらなさ」を反省し、あぁまた大きなことを学ばせてもらった、と感謝の気持ちでいっぱいになったのです。

そうなんですよね。「噛んだとしても、大したことがないから気にしないで。」ではなくて、「一緒に、見守ろう(そして必要な時には阻止しよう)」であるべきだったんですよね。みんながそれぞれに注意して見守っていても、もしかしたら防ぎようのない場合もあるかもしれない。その時には「大したことがないから気にしないで。」になりますが、「注意深く見守る」ことなしにそれはあり得ないことなのです。そしてそれは「噛む」側だけの責任ではもちろんなく、その場を共有しているみなにある。そうやってたくさんの手と目を作ることが、一人のお母さんの肩の荷を下ろすことになるということに、私は全く気づいていなかったのでした。

こうして学ばせて頂けるのも、お互い率直に話し合えるからなんですよね。そのような方と出会えて、心から「私の財産だ」と思います。出産1ヶ月前に引越しをし、その数日後に参加した保健所のマタニティクラスで偶然隣に座ってらしたのがバンコちゃんのお母さんでした。そして声をかけてみると、なんとバンコちゃんのお母さんはオットの後輩で、オットのこともご存知!おまけに同業者とまではいきませんが、同じ世界でお仕事をされているので、私の職場のこともとてもよく知っておられたのです。うーんなんと奇遇な・・・でも時々お会いすると、「初々さんが『樋口可南子に似ている』って患者さんたちから人気だって○○君から聞きました。おかしかったです。」なんてことを言われたりもし、職場での出来事も筒抜けで、「悪いことできないなぁ・・・」と思うのでした。いやしかしそれはそれとしても、バンコちゃんのお母さんに出会えただけで、左京区へ引越してきてよかったとつくづく思うのです。