マリオとユビリのクリスマス

supply72008-12-24

フェリス・ナビダー!(=メリー・クリスマス!) よく「日本語で『メリー・クリスマス』はなんというんですか?」と訊かれて困っている、湯川カアちゃんです。世界中がキリスト教のお祝いをするわけじゃありません。しかもクリスマスももともとイエスの誕生日というより、たしか北のほうのヨーロッパの民族の冬至の祭(あるいはミトラ教という説もあり)がキリスト教のイベントとして繰り入れられたとかで、イエスの誕生日というのは後付け。麻雀なら「アリアリ・ルール」でないとあがれないような代物です。中世を通してバチカンよりもごりごりにカトリックの牙城として異教徒や新教徒と戦争をし、19世紀まで異端審問で火あぶりをしてきたスペインでは、だから、意外とクリスマスは淡白です。家族、というか親類一同が集まってごはんを食べる。おしまい。ケーキもありません。トゥロンという、「うっかり2年間放置しておいたヌガー」みたいにガチガチの菓子を食べます。(右上の写真) ちなみにこの菓子は、イスラム教徒とともにイベリア半島に渡ってきたもの。って、異教じゃん!

今月はニーニャの保育園で「クラスメートの出身国それぞれのクリスマス」をテーマとしたアクティビティがありました。いきなり初回が日本。その名もスペイン語で「ベツレヘム」を意味するすごくまじめで繊細な担任のベレンに向かって、「えー、日本ではクリスマスは基本的に『恋人の夜』です。景気が良かった頃は半年前にホテルを予約する騒ぎでした。小さい子にとっては『大きなデコレーションケーキを食べて、プレゼント交換をする日』以上のものではありません」と答えると、少々問題のある心臓が止まりそうな様子で驚いていました。ごめんね。いや、ちゃんと(トンビさんの受け売りで)隠れキリシタンの話をしたりマリア観音の画像も見せたんですよ、一応(トンビさん作「判太翁様」を日本版サンタだと紹介するのは、なんとかこらえました)。結局、みんなでハートマークを作ったみたい。ま、だいたいいいんじゃない?

なぜ「作ったみたい」かというと、その後、病弱なベレンが休んだまま保育園が冬休みに入ったため、今学期の作品集配布がなかったから。そう、今週からまた「24時間密着保育園」再開中です。こんなときは偶然の到来を求めて、とにかく外出するべし。というわけで昨日は、「たまたま声をかけてくれた近所のグロリアおばあさんの息子がロンドンで結婚したお相手で、たまたまうちのツレと同じ和歌山出身しかも高校まで同じで、たまたま私と同学年で、たまたま現在ニーニャより半年上と半年下のふたりの女の子をもつ、日本人女性」がたまたまダンナさんの実家=つまりうちから徒歩2分の家に帰省しているので、朝からみんなでスペイン唯一のデパートのクリスマス壁飾りを見に行ってきました。

人形が動いてちょっとしたショー仕立てになっている壁飾りは予想を遥かに下回るしょぼさでしたが、その広場に出ている例のネズミ・ファミリーもどきの着ぐるみたちに、子どもたちは大興奮。着ぐるみが明らかに安物で、変にだるだるで変にぺちゃんとしているのも、ちっともお構いなし。なんせネズミーランドではタブーらしいのに、なんとパッと見ただけでネズミーの彼女が同時に3体出ているというゴージャスさ。しかも主役のネズミーはちょっと仕事に飽きたのか、たまに首を外しては中のひと(背が低くて汗だくの50がらみのおっさん。名前は「マノロ」に違いない)が顔を出す、という掟破りのサービス付き。

私もニーニャとネズミーの彼女の列に並び、ネズミーの彼女が作ってくれる風船をもらい、50センティモを渡すと、「彼女」もちょっとサービスする気になったようで、「お名前は? 別嬪ちゃん。『てって、パチン!』しようねー。それ反対のてっても出して、もう一丁!」と、ものすごーいおっさんのだみ声丸出しで話しかけてくれました。ニーニャはともかく喜んでいたような。そんなこんなのすべてが恐ろしくて、写真撮り忘れました。

というわけで下の写真は、毎年うちの近所にやってくる移動遊園地のアトラクションから。昨日のネズミーもだいたいこんな大雑把さでした。っていうか、すごく似てる。ということは、あれはやはり正規にライセンスとったネズミーではなくて、この看板によるところの「マリオとユビリ」だったのかも。まあそんなこんなで、「なんだかグローバリゼーションのせいで、スペインにもサンタクロースが来るようになっちゃったよ」と世の親御さんたちが舌打ちするスペインのクリスマス・イブの夜は静かに更けてゆくのでした。