うっかりカアサン繁盛記

やっちまったぜ。またギックリ腰。出産後、これで4度目だか5度目だか。出産前には2、3年に1度だったのだが。うーむ。まあ死なないし、家族も死なないので、いいっちゃいいのだけど。

しかし今週は、そんなギックリ腰より、もっと「やっちまった」ことがあった。締め出し、だっけ? 鍵を室内に置いたまま外に出てしまったのだ。解説すると、スペインの玄関ドアには、外側に取っ手がない。ドアが閉まると、たとえ施錠していなくても、鍵を使わないと中へ入れないのです。鍵をまわしつつ、でっぱりを押してドアを開け中に入る。そう、内開き。玄関狭い。

昨日、郵便やさんが小包をもってきた。この国に「再配送」などはないので、このチャンスを逃すと郵便局で受け取りになる。大慌てで玄関の鍵をがちゃがちゃと開け、それを靴箱の上に置き、覗き窓から配達人が正規のひとっぽいか、影に誰か隠れていなさそうかを確かめてドアを開け、半身を外に出して荷物を受け取る。「ここにサインを」と配達リストを差し出され、一歩前に出る。背中には開いた、でも室内が丸見えにならない程度の絶妙な角度で止めたドア。そこに突風びゅう。バタン。あっ! しまった!!!

ニーニャー!!

「あの、携帯貸してください。ドア閉まっちゃった。鍵、中に。赤ちゃんも」「携帯ないんだよ、ほんと悪いね」 ギックリ腰も忘れ、ドタバタと階段を降りてお隣さんへ。いや向かいは共働きで留守、3階もそうだ、2階のおじちゃんなら去年退職して、ちょうど今ごろはシエスタ中のはず。ピンポンピンポン「もしもし! 上のカナです、もしもし!」ピンポンピンポンピンポン。おじちゃん、さるまた一丁、胸毛ぼうぼうで出てきてくれる。「あのね、鍵を、ニーニャを中に、」「あーらら。鍵はいつももって出ないとねー」彦麿呂似の憎めないおじさんがのんびり渡してくれた電話でツレに連絡。「え? いますぐ行くから」 郊外のオフィスからここまで推定30分。

さて。

家の前に戻り、「ニーニャ?」 名前を呼んでみる。「パン、パン?」 ポリス時代のスティングの歌声の合間に聞こえる。腹が減ったらしい。さっきちょうどカルピスたっぷり作って渡したとこだし、ハサミは片付けたし、ベランダ側のソファの上によじのぼれるものは置いてなかったよね? 「ニーニャ、ママここいるからね。だいじょうぶだからね。パッパすぐくるから」「パーン! パーン!」 やがてガサゴソという音。これは落書き帳だな。ぐちゃぐちゃにしてる。怒ってるな。再生紙100%のしけった音。それがしばらく続き、そして、「パーン」もガサゴソも聞こえなくなった。「ニーニャ? 返事して? もしもーし?」 無反応。ひょっとしたらハサミ片付けてなくて喉ついた? ソファの上にお尻拭きの箱を置いてて、それを足場にソファの背によじ登って窓から転落? さっきからロケンロールしか流れないラジオを不満げにいじっていて感電? 思うまい思うまいと思うものの。

焦れて焦れて、小包を結んでいたビニール紐を歯で噛み切りドアの隙間からねじ込んでなんとか開かないかと(そんな玄関はイヤだけど)泥棒よろしく試していると、ツレ登場。「ニーニャは?」「さっきまでパンパン言ってたんだけど」 ガチャガチャ、開けた足で「ニーニャ!」叫びながらツレが先に立って室内へ。バウンサーでむっつりと指を舐めていたニーニャ、ビックリ顔で抱っこされてやってきた。ああ無事だよかった。「ねえこの子、」 ツレが顔をしかめて言う。なに? 怪我でもしてるの?? 「臭い」 あ、ほんと。どうやら途中から無口になったのは、きばっていたためらしい。いやその肝の太さに脱糞、もとい脱帽。


その後は、せがまれるままお菓子もジュースも「肉ばっかり」もあげた。ええ、あげましたとも。「生きてて、よかった」に追い込まれると、メタメタに甘くなる。いや、ほんとはそれでいいのかも。「よりよく生きる」ためのことなんて、ヒマジン・オール・ザ・ピーポーの気まぐれ、傍迷惑なのかもね。歯を縦に磨くか横に磨くかだって、卵の黄身と一緒に白身を食べたほうが良いのかどうかだって、ほんの10年で変わる「常識」なんだから。

……なんて、悩める輩、初々さんのエントリーのことばに支えられて自分を支えてるわけです。

ともかくそういうわけで、在住9年にして2度目の失敗でした。スペイン在住のみなさんは気をつけてね。ちなみに前回は鍵のSOSを頼んだら15,000円くらい取られたような記憶が(このボッタクリは社会問題にもなった)。ま、ドアがビニール紐くらいで開かないことがわかっただけでよしとしよう(ウソ)。