スペイン国歌にゃ歌詞がない

日本も暑いようですね、こちらスペインも今週は「太陽の国」全開。日陰でも40℃のマドリードです。外気の侵入と強烈な日光を避けるため、日中はブラインドを下ろしっぱなし。意外と、「太陽の国」の家の中は暗かったりするのでした。

いやいや、個性を尊重せよと言うならばさ。いきなりですが、その暗い家の中でぴゅーと湯気を立ててます。目の前に開いているのは日本の「母子健康手帳」(日本語・スペイン語併記、2004年度版)。現在配布されているものと同じかわからないけど、やあこの全体主義の産物よ。なにがすごいって、成長の各フェーズで記すことを求められる「保護者の記録」。たとえば「1歳6か月の頃(このページは1歳6か月児健診までに記入しておきましょう)」のチェックリストから抜粋。

・ひとりで上手に歩きますか           はい/いいえ
・自分でコップを持って水を飲めますか      はい/いいえ
・哺乳ビンを使っていますか           いいえ/はい
・食事やおやつの時間はだいたい決まっていますか はい/いいえ
・子育てについて困難を感じることはありますか  いいえ/はい

あれえ、「はい」と「いいえ」が入り乱れてるぞ。チェックリストとしてはかなりいびつなこの書式に、最初は○するところを間違いかけた。そして気づいた。「正しいひと」は、○が左側に並ぶようになっているのだ、と。とすると「1歳6か月健診まで」に「哺乳ビンを使っている」「子育てについて困難を感じる」のは正常ではない、ということらしい。放っとけや。

スペインにも似たようなものはある。出産後に自治州から配布される「子どもの健康」という冊子。出産後なのでもちろん「妊婦の職業と環境−仕事の内容、住居の種類、同居(夫・夫の父・夫の母……その他)」などという、手元の日本版母子健康手帳にあった妊婦のプライベート情報を書き込む欄はない。また、成長曲線が印刷してあり、自分で子どものデータを記入していけるようになっているのは日本のと同様だが、データの記入ページは「測定日/月齢/体重・身長・頭囲/備考」という項目でざっくり仕切られているだけで、6ヶ月や1歳で漏れなく記入しなさい(健診までに)、というプレッシャーはない。もともと集団の健康診断などないからかもしれないけれど(日本ってまだやってるんだよね?)。

そして、「成長の記録」欄。ここは「開始/月齢/備考」という3項目の、最初の行に「ひとり座り」「ハイハイ」「歩く」などと印字してある。該当箇所に自分で「5ヶ月」などと書いていく形式。しかも1ページだけのこのコーナー、「声や音に反応する」(0ヶ月とか1ヶ月)に始まり、20項目めの「最初の月経」で終了。実にざっくりとしたもんす。それに慣れた目で日本の母子健康手帳を見ると、その「管理したがり」な全体主義臭にクラクラとし、頭からぴゅーと湯気を立ててしまうのでした。

あの、ついでにお知らせしちゃうと、体育や集会の時間に身長順に整列するの、あれもかなり「臭い」です。これは前方に立つ管理者が全体をもれなく一望するための隊列で、軍隊のもの。こちらで教えを乞うた大学の社会学教授フェルミンによると、「たしかにスペインでもやってたけどね、フランコ時代は」とのこと。個性を尊重すると本気で言うならば、ねえおっさん、まずは同じ月齢の子たちを集めることで管理側には至便であり親には横並びのプレッシャーを与えるような集団検診をやめ、微に入り細をうがった陰鬱な母子健康手帳も変え、「小さい順に前に倣え」とか「体育座り(これは日本オリジナルの自縄自縛スタイル)」とか隠れ国民皆兵制な教育(周辺)様式をやめるとこから始めればいいのだ。って、国歌斉唱しなければ鞭打ちの刑とかなんだっけ、日本っていま。うーむ。斉唱しようにも国歌に歌詞がないからなあ、スペインって。