そして生まれた。

妻に揺り動かされて目が覚めたのは朝の4時半過ぎだっただろうか。どうやら「あの痛み」が来たらしい。身体的構造上、僕自身はまったく経験し得ないのだが、ここ数日の腹の張りとは明らかに違うものが来たらしい。そしてそれは、約3年前のそのときのものと同じ種類のもので、それがきたとき初めて、ああこういう感じだったなぁと、やっと思い出すことのできる、そういった種類の痛みだったという。

しばらく様子をみながら、やはりそうだと確信が得られて布団から這い出したのが5時ごろ。「陣痛が来たら早い」とハートカクテル院長に言われていたので、早速着替えて、入院のための品をあらかじめ準備していたがバッグを引っ張り出し、いつでも出発できるようにスタンバイ。

すでに10分おきに波がきているのだが、いまいち決め手にかける感じを覚えた妻は、もうすこし様子を見ることにして、とりあえずは自宅で待機。ぼっちゃんのときも、10分おきに波が来るのでさっそく病院にかけこんだが、結局その晩は決定打に繋がることなく、看護婦さんに「一回帰ったら?」と言われて家に帰ったことがあった。どうもまだこのときはそのぐらいの感じだったらしい。

そして午後1時半をまわった頃*1、病院へ今から向う旨を連絡。ソロソロと車を運転しながら病院へと向う。例の特殊浴場街を車で抜けていく。呼び込みのお兄さんたちは年の瀬も関係ないといわんばかりに、寒い風の吹く中、足元のストーヴに視線を落としながら経っている。写真は出発直前。結局これが妊婦姿を収めた最後の写真になった。後ろの牛の絵は義父(妻の実父:元中学美術教師)が描いた干支の牛。背中にのっているのはぼっちゃんとふたご。

ぼっちゃんも連れて病院入りしたが、いつでも出発できるようにやっぱり朝7時ごろ起こされて、そのままずっと待機だったので、病院についたころにはすっかりご就寝。しかし、生まれるまでに数時間かかったから、あとになって考えるといい具合に頃合をみつけて寝てくれたものだ。

そして妻の陣痛もだんだん激しくなってくる。その時が近づいているのだ。

夕方の6時ごろだっただろうか。すでにぼっちゃんも目をさまして、ばあちゃんと一緒に別室で待機している。病院のひとに言われてぼっちゃんたちを迎えに行き、出産する部屋へ連れて行く。
苦しそうな自分のお母さんや、お医者や看護師たちがいるお産室の独特な雰囲気に気おされて、思わず涙ぐんでしまうぼっちゃん。このとき、ほんとうに立ちあわせていいものかな、と一瞬疑問が生じたが、彼は必死で涙をこらえている。どうなるかわからないけど、やはり彼にも立ち会う権利はあるべきだし、なにより立ち会ってほしいと思った。
「おかあさん、だいじょうぶ?」と声をかけるぼっちゃん。

それからはもうあっという間だった。呼吸や力の入れ方などもスムーズに導かれながら、ほんとうに2回ほどいきんだだけ。

6時28分、ウニャ子がすごい大きな声と共に僕らの前に姿を現す。目を見開いているぼっちゃん。「あかちゃんが出てきたね!」と言うと、こくっと頷く。意外と冷静だ。そして、落ち着いて、父と一緒に、ウニャ子ちゃんのへその緒にはさみを入れた。

*1:けっきょくそんな時間までいたのか・・・