ナイフ同士

supply72009-06-12

 いささか古い我が家の車は、いつも元気いっぱい!というわけにもいかず、人間のおじさんおばさんと同じで、「こないだ眼鏡を作り替えたと思ったら、今度は歯が抜けた」という具合に、時々「病院」へでかけます。「かかりつけ」の整備工場は、一見、いたって普通の工場なんですけど、たぶん、長崎の中ではかなり「濃い」車や人々も出入りしています。とんでもないベンツとか、ポルシェとか、フェラーリとか、そんでもって、「とんでもないベンツがいつ行っても止まってるな〜」と思ったら、「オーナーが『おつとめ』の間、預かってる」とか、そういう感じ。それはひとえに工場長であるK監督(私とダンナの間では『監督』と呼ばせていただいています)の技術と「人徳」によるものなのでしょうが、最近この工場で、K監督の甥っ子が修行中です。それがまぁ、とっても礼儀正しくてすがすがしいのですが、見るからに「やんちゃ歴」がありそうなお兄ちゃん。こないだ他の人に作業をしてもらっている間、K監督と甥っ子さんと私の3人で話していると、K監督曰く「こいつはね、私の妹の息子でね。悪かったんですよー。若っか時の私によく似とると〜」。そうでしょうそうでしょう。どちらもそうでしょう。「若き日のK監督」って、どんだけ「ナイフみたいなヤツ」だったのかと思いますもん。じゃないと、技術だけでは「『おつとめ』に出る、とんでもないベンツのオーナー」とは渡り合えませんからね。そして「甥っ子さんが高校生の時にK監督の新車を持ち出して深夜のドライブのあげく、谷底に落としてしまった」話などなど、素敵な話をたくさん聞いてしまったのですが、途中から、自分が人類学者になったような気さえしました。
 親では直接すぎることが、おじさんと甥っ子の関係ならば、うまく伝えられる。家とはまた別の「居場所」が、おじさんのところにはある。23歳にして、ひと月に「エコー」を5カートン吸うという(これだけでも彼がいかに「やんちゃ」かわかりますね)甥っ子さんですが、彼はたぶん、監督がいなかったら、もうちょっと「やんちゃ界」から抜け出すのに時間がかかったり、ひょっとしたら抜け出せなかったかもしれません。そうなると、彼は(お兄ちゃんも負けじと「やんちゃ」だそうですから、彼ら、は)、K監督という存在がいるってわかってたから、安心してこの世に(やんちゃ者として)生まれて来たんじゃないかとも思えてきました。
 ナイフには、ナイフにしかわからないことがある。
 ナイフの親がナイフとは限らない。
 それは悲しいことではなくて、むしろ、喜ばしいことなのだと確信した、修理工場の昼下がりでした。

 
(写真は、先月の母の日にヒコから渡されたカーネーション。約1ヶ月愛でておりましたが、さすがに力尽きてしまいました。)