砂上の楼閣

 常にアグレッシブで、歌も踊りも大好き。きっとどっかにラテン系遺伝子。知らない人にもどんどん話しかける、オールウェイズ陽気な男。

 そんなヒコが、1年前の運動会で、あれほど私にしがみついて離れなくなるとは思いもしませんでした。おなじ組の子どもたちは、平然と子どもたちだけでテントの中に座り、かけっこの時はかけっこ、お遊戯の時はお遊戯をしています。なのにヒコは、ちょっとでも体を離そうものなら、その10倍の力でしがみつき、泣きわめいて抵抗します。結局、プログラムには、私が抱っこして参加しました。普段のヒコから考えると、それはもう不思議で、どこか具合でも悪いのかと思いましたが、保育園の先生たちは、なんと、この事態をかなりの確信を持って予想していたそうです。つまりは、数年にひとりはこういうタイプの子どもがいて、そういう子は往々にして運動会でこのような感じになる、という経験則があったようなのです。私にとってはあまりに想像を超えていて、たとえ事前に「無理かも」って告げられても、信じなかったでしょう。「えー、だって、こんなヒコが、そんなふうになるわけないじゃーん」って思ったと思う。でも「そんなふう」になることが、どうやらあるらしい。一人二人育てただけではまったく想像することのできない「回路」が、子どもの中には存在するようなのです。だから、なにか不可解なことがあった時に、「この子らしくもない!」と断罪することは、ただ単に「回路」を読み取れていなかっただけかもしれない。「この子のことは私がいちばんよくわかっている」という「母親全能感」が、いかにあやふやで、貧困な想像力の上に立つ砂上の楼閣であるかという証明かもしれないのです。
 とにかく「大勢の人にビビりやすい」という因子がヒコの中にあることは、その時、身にしみました。さて、くんち本番はどうなるでしょうか…。