吹き飛ばないしあっという間でもないが

 もうすぐ3歳。「あっという間だったでしょう?」と言われることも多いですが、「過ぎた時間は何でもあっという間」というレベルの話をのぞけば、そんなことは1ミクロンもなかったです。妊娠中も「あっという間だよ」ってよく言われていたけど、当時は「妊娠してない状態がいつだったかわからないくらい昔から、この先未来永劫」って感じの妊婦感でした。いま思えば、妊婦時代を「あっという間だった」と言うことは簡単です。だけどそれは極力言いたくない。あの「長く思えた感じ」こそが、その時代からもらった大きな宝のような気がするからです。それはそのまま、この3年にも当てはまります。長い階段をスタスタと歩いていくヒコの背中などを眺めながら、一瞬、「えっ? いつの間に?」と思うことが、最近よくあります。だけどそこには膨大なものが詰まっている。正直なところ、あまりの疲れに泣いたことが何度もあったし、それにともなう精神的な危機も1度や2度ではありません。子育ては…私にとっては…予想以上に過酷なものでした。「そんなことは天使の寝顔を見れば吹き飛ぶでしょ!』なんて言う人がいたら(幸いいませんでしたが)、

 と、ここまで書いたところで、なにかいやな夢でも見たのか、それとも私が「彼に関するマイナス面」を思い起こしていた意識を感知したのか、眠っているヒコが泣き出しました。

 「天使の寝顔を見れば吹き飛ぶ」ってものでもない険しい道を踏みしめながらも、しかし

 と、ここまで書いたところで、はるちゃん(猫。女子。生後半年)のウンコの匂いが無視できないほど漂ってきたので掃除して、…なにを書いてたのだったっけ?

 あぁ、「天使の寝顔を見れば吹き飛ぶってわけじゃないけど、それを踏みしめつつ、得たものは大きかったというか、そういう『得る』とか『失う』っていうやりかたで行こうとすることが、いちばんつらい結果を生むことがわかって良かったなぁ…って思っててもなかなかできないことの方が多いんだけど!」っていう無限ループのような回路がちょっと見えた、というような話です。

 ひとつの物事やひとりの人間について、ついうっかり「ほんのひとつ」と思ってしまいがちだけど、その「ひとつ」の中には膨大なものがひそんでいる。「あっという間」と言うのは簡単だけど、その「あっ」を虫眼鏡で見たならば、そこには、人の体を作っている細胞とも似た、何億何兆もの瞬間がうごめいている。

 3年という時間は、決して短いものではない…頭でっかちな私が、それを3年かけて体感できたことが、とてもありがたいことでした。


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ついに完成しました! この1冊にも、どっさりいろんなものがこもってます!

長崎迷宮旅暦

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